棚田T



大垪和西棚田



岡山県の中北部、久米郡美咲町の標高400mの山間、42haのすり鉢状の谷間に広がる棚田は850枚にのぼるという。法面構造は土羽で独特のなめらかな曲線は美しい縞模様を織りなし、また四季折々に変化する稲田の様も美しい。かねてより一度は行ってみたいと思っていたこの棚田を、田に水がはられた田植え前、青々と早苗が育つ頃、稲刈りの頃と三度に渡り訪ねた。
追記:夕暮れの棚田を見ようと2012年田植えのころに再訪した。


5月14日(2011)

ここまで大規模な棚田を見たのは初めてだった。田植えを控えて水のはられた田は鏡面のごとく光を反射して輝いていた。夕日に照らされると谷全体が幻想的な雰囲気に包まれると聞いた。
すり鉢の外周を取り巻く5qあまり道を棚田を見ながら,蛙の合唱を聞きながら一周した。
階段状に谷へと落ちていく棚田は手入れが行き届き、田を仕切る畔がうつくしい曲線を描いていた。















6月14日 (2012)

梅雨とはいえ二日ほど天気が続いた。棚田にも早苗を植えられたころに違いないと思い、夕景が見たくて夕方から出かけた。昨年に比べ休耕田が多いうえにちょっと稲も伸びすぎた感じがしたが、幸い空は晴れている。陽が西に傾き、雲間に隠れるまで、夕日の見れる場所へ移動し待機した。雲が多かったとはいえ、棚田が夕日に染まるのを見る事が出来た。





18:27


18:48





7月9日(2011)

太陽がぎらぎら照りつける棚田は緑に覆われていた。あちこちで畔の夏草を刈り取る音が響き、棚田を美しく保とうという地元の人たちの重労働が見て取れた。あまりの暑さに今回は車で一周、農道にはヤブカンゾウ、ウツボグサ、カワラナデシコなど夏の野草が咲いていた。















9月15日(2011)

棚田全体は黄金色に変っていたが、目に飛び込んだのは台風12号の爪跡だった。風雨に打たれ多くの稲がなぎ倒されていた。稲刈りも始まっていたが、倒れたものは従来の鎌による刈り取りが行われるようだ。そうでなくともこの小さな田では農業機械よりもまだまだ手作業が多いのだろう。我々はただ美しいと鳥瞰しているだけだがこの風景を保つ労働の大変さが伝わってきた。
すり鉢の中に入ると一層真夏の暑さだが
ススキが風に揺れ、小粒の柿が早くも色づき青々した立派ないがにくるまれたクリが沢山実のっている。土手のあぜではヤブマメ、ノマメ、ツルボ、クズが茂り、彼岸花もそろそろ開花し始めていた。
名残のツクツクホウシが長い夏の終わりを知らせているかのようだった。











この棚田には「棚田見学順路」といった道案内があることを思えば外来者を歓迎してくれている。集会所前に車を止めたとて駐車料金をとるわけでもなく、案内図まで用意して。各地で過疎が進む中、地の人はこの棚田を美しく保っていることに誇りを持っているのだ。

この日、棚田を見下ろすように彼岸花が咲いていた。同じように写真を写しに来た人だろうか?いいアングルで撮ろうと夢中になったのだろう。踏み倒された彼岸花を見つけた。平気で荒らす人もいるのだと恥ずかしい思いがした。





3月8日 (2015)


真冬の雪に覆われた棚田を見るというのがあこがれではあったが・・・奥地にあるだけに雪道で入村するのが気後れし、この季節となってしまった。棚田を取り囲む周辺の木々も葉を落としているからだろうか、より一層広範囲に見渡せたという感じがして、冬枯れの刈田は、なかなか良かった。まだ残っている稲株が整然と並んだ様子や、むき出しの土の法面がくっきりした曲線を描いているのもなかなかいい。春に向け杉林を間伐するチェーンソウの音が響いていた。








近県の棚田などを調べるうち、このいくつもの田にどのようにして水を招きまた、配水するのだろうかという疑問を感じた。水源はそれぞれに河川、溜池とあるようだがこの大垪和西棚田とすぐ近くにある小山は天水ということだ。今度行く機会があったら地元の人に聞いてみよう。



〜参考〜

近燐の棚田(棚田百選より)

一般にその勾配が1/20以上の段々畑を棚田といい、そこで植えられる作物の主は稲である。

棚田の名称 所在地 面積 ha
枚数 平均勾配 s水源 開発時期
岡山県 北庄 久米南町 88 2700枚 1/7.5 ため池 近代(明治〜S20)
上籾 久米南町 22 1000枚 1/7 ため池 近代明治〜S20)
小山 美咲町 5.5 30枚 1/10 天水 近代明治〜S20)
大垪和西棚田 美咲町 42.2 850枚 1/5 天水 近代明治〜S20)
広島県 井仁 安芸太田町 10.1 324枚 1/6.1 中世〜近世
山口県 東後畑 長門市 7 210枚 1/14.9 ため池 中世(戦国)〜近世
香川県 中山千枚田 小豆島 12.4 888枚 1/5 中世〜近世
徳島県 樫木 上勝町 5.5 546枚 1/3.67 中世(平安、室町)
下影 三好市 1.1 30枚 1/4 近代明治〜S20)
愛媛県 泉谷 内子市 4.0 95枚 1/3 ため池 近代明治〜S20)
堂の坂 西与市 1.5 100枚 1/5 中世(平安、室町)
奥内 松野町 20 600枚 1/7 古代以前
兵庫県 岩座神 多可町 11.8 344枚 1/6 近世(戦国〜江戸)
乙大木谷 佐用町 23 988枚 1/20 天水 中世(平安、室町)
うへ山 香美町 3.1 39枚 1/5 不明
西ヶ丘 香美町 6.9 126枚 1/2.8 中世(平安、室町)
大阪府 下赤阪 千早赤阪村 7.4 250枚 1/6 中世(室町〜
長谷 能勢町 5.9 200枚 1/5 天水 近世
奈良県 稲淵 明日香村 21.5 315枚 1/4 河川 中世(平安、室町)


棚田開発の時代からその地域のちょっとした歴史も見える気がして興味深い。
調べてみて百選に指定されていても耕作地が減り荒れた棚田もあることを知った。
さとやまが見なおされているとはいえ、実際には過疎化という現実があるのだ。


注:所在地名はは町村合併などにより変わっている場合があります

番外の田んぼ

百選には入ってない棚田、勾配1/20かどうか不明だが印象に残る段々畑

大草  岡山県高梁市
上山  岡山県美作市
明地峠の下  岡山県日野市




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